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VOL.6
2003 |
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犬のしつけにアート・科学・技術の3つは欠かせません。今回はしつけをする際知っておくと便利な犬の心理学2点についてお話をします。
《網様賦活系(もうようふかつけい)》
犬も人間同様重要性の低いことは聞き流すという能力を持っています。例えばあなたがお昼休みを知らせる大きなベルの鳴る工場の近くに引っ越したとします。最初の数日は耳障りに感じるかもしれませんが、その後は気にならなくなるでしょう。その理由は、脳がその音はあなたにとって重要でないものと判断したからなのです。工場の従業員とは違って、あなたは好きな時にお昼ご飯を食べられますよね。
これを可能にしているのが脳の中の網様賦活系(RAS)というところです。RASには日常生活で起きるさまざまな事を認知・処理し最終的に行動させるという働きがあります。RASは犬のしつけの"科学"に当てはまり、これは我々が犬とうまくコミュニケーションを図れるかという事に関わってくるのです。あなたが「オスワリ、オスワリ、オスワリ」と繰り返し言っても、「オスワリ」は何の意味も持たず、オスワリもしないとします。これは犬が聞き流している結果かもしれません。犬に音は聞こえていますが、それを重要でないと学習してしまったのです。もちろん犬と戯れる時など、飼い主が好きなだけ無意味な言葉を並べ立てても構いません。「まぁ、なんて賢い子なの。そうよね、モモちゃん?」しかし、何かを学習させようという時には、曖昧でグレーな要素は取り除きます。重要な情報のみを明確かつ簡潔に伝えるのです。白黒はっきりと。
コミュニケーションをABCで考えてみましょう。
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A:Antecedent |
行動の前に起こる事:最初の例でいえば工場のベル |
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B:Behavior |
行 動:工場の従業員が仕事の手をやすめてお昼ご飯を食べるという行動をする |
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C:Consequence |
結 果:報酬ーお昼ご飯を食べたという報酬 |
では一方オスワリをこれに当てはめてみると、こんな風になります。
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A:Antecedent |
キュー(※1):「モモ、オスワリ」 |
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B:Behavior |
行 動:犬のお尻が下にさがり床につく |
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C:Consequence |
結 果:ひとかけらのチーズ |
《力の反作用》
リードを介して力の反作用が起こります。リードは必要です−その理由は安全のため、しつけのためですが、多くの飼い主は犬を希望の場所につけようと、犬をグイッと引っ張るために使います。不必要で不愉快であるばかりでなく、科学的原則によれば、こういった行動は逆効果にしかなりません。実際こういうことが起きています。
犬のリードを自分の方に引っ張ると、犬は引っ張りかえすでしょう。これが反作用です。犬の腰を床に押しつけると、犬の自然な反応としてその圧力に抵抗します。これが反作用です。犬の首輪に指をいれて軽く引いてみてください。その圧力から逃れようと離れていきますか、寄ってきますか?力が強いかトレーニングされているかでないと、本能的に力のかかった向きと反対に動くものなのです。なぜお散歩の時引っ張るかおわかりになりましたか!自然に備わる本能にしたがう方が、それに反するよりずっと楽ですね。重力は良い例でしょう!私のスローガン「犬の頭をコントロールすることで、犬をコントロールしよう」にしたがうのが良い方法です。立っていて、犬の頭が上を向けば重力によりお尻は下にさがるのです。 |
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Train, Don't Complain, Terry Ryan
(文句を言わずにトレーニングしよう。テリー・ライアン) |
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用語の解説 |
(※1)キュー=英語のCUE。きっかけ、合図などの意味。 |
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